美奈川護 ヴァンダル画廊街の奇跡


 今月発売の電撃文庫は第16回電撃小説大賞の受賞作が出ていますが、中でも金賞受賞作の美奈川護作「ヴァンダル画廊街の奇跡」が、「ギャラリーフェイク」などでアートに多少の興味と知識があり、私自身も創作をすることから興味を引きましたので読んでみました。

 大戦後に結成された世界政府が制定した<プロパガンダ撤廃令>により戦争に関わるとされたあらゆる芸術が規制、封印された世界──それに抵抗するように規制対象となった絵画を街中の壁に描き出すアート・テロリスト『ヴァンダル』がこの作品の主人公です。
 目にしたものを正確に記憶し、細かい色や筆遣いに至るまで完璧に再現する『転写眼』の持ち主エナ、高性能AIのネーヴォ、半サイボーグのハルクの3人(?)で構成される『ヴァンダル』を中心に、彼女達が記憶し、複写する名画が織り成す物語が作品ごとに章立てで繰り広げられますが、それぞれの話で封印された名画と<プロパガンダ撤廃令>で人生を変えられた人達、『ヴァンダル』を追うインターポールの捜査官達も絡んで酸いも辛いも甘いも深い人間ドラマになっております。

 しかしこの作品の世界を形成している<プロパガンダ撤廃令>ですが、平和のために戦争と関わりのある芸術を葬ろうという考えは私に言わせれば、少年犯罪を助長するから少年漫画の暴力描写などを規制しろという主張と同じ次元ですよ。
 そりゃまあ戦争時の国威掲揚とかのために生み出された芸術というのも歴史上少なくありませんが、同時に戦争への憤り、平和への願いから生み出された芸術というのもたくさんあるわけです。そうした違いも考慮せず、戦争に関わる、戦争の時代に生み出されたというだけでひとくくりにして葬り去ろうというのですから、多かれ少なかれ納得できない思いを抱いている人が大多数でしょう。だから多くの人達が『ヴァンダル』に拍手喝采を贈り、『ヴァンダル』を追うインターポールの捜査官にしても果たして自分達の仕事が本当に平和のためになるのだろうかと疑問を抱いたりするわけです。
 そうした複雑で味わい深い作品なだけに、是非続編が出て、『ヴァンダル』と名画に関わる人々、インターポールの捜査官達の繰り広げる物語をもっと見てみたいと思うわけです。

ヴァンダル画廊街の奇跡 (電撃文庫)
アスキー・メディアワークス
美奈川 護

ユーザレビュー:
絵画ファンタジーとい ...
世界を変える一枚の絵 ...
amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ商品ポータルで情報を見る


"美奈川護 ヴァンダル画廊街の奇跡" へのコメントを書く

お名前
メールアドレス
ホームページアドレス
コメント